あれは念願のマイホームを手に入れてから初めて迎えた蒸し暑い七月の夕暮れ時のことでしたが私は家族のために夕食の準備を始めようと米びつの蓋を開けましたがそこで目にした光景は一生忘れられないほどの衝撃であり真っ白なはずのお米の表面を数え切れないほどの小さい茶色い虫がトコトコと歩き回っていたのです。それまで私はお米に虫が湧くなんて昔の話だと思い込んでいましたが自分のキッチンで現実に起きている事態を前にして最初は悲鳴を上げることさえ忘れて立ち尽くしてしまいました。よく見るとその虫は三ミリ程度の大きさで象の鼻のような奇妙な形をしており一粒一粒のお米を確認すると小さな穴が開いていて中が透けて見えるものまであり私は自分の無知な管理がいかに大切な食料を台無しにしてしまったかを痛感して激しい自責の念に駆られました。慌てて全ての米を捨てようとしましたが農家の方が丹精込めて作ったお米を無駄にするのは忍びなく私は覚悟を決めて孤独な撃退作戦を開始し、まずは大きな新聞紙をベランダに広げてその上にお米を薄く広げ直射日光を避けた風通しの良い場所で数時間放置したところ光を嫌うコクゾウムシたちが次々と外へ逃げ出していく様子を目の当たりにしました。その後残ったお米をボウルに入れ流水で何度も丁寧に研ぐと虫に食われて軽くなった米粒や幼虫がプカプカと浮いてきたためそれらを徹底的に取り除くことでなんとか食べられる状態までリカバリーすることができましたがその研ぎ汁の不自然な濁りと不気味な気配には最後まで神経を摩耗させられました。この事件を機に私は米びつをプラスチック製から最新のパッキン付き密閉容器へと買い替えさらにお米の保管場所をシンク下から冷蔵庫の野菜室へと変更しましたがこの単純な変更こそがそれまでの終わりのない恐怖を完全に終わらせる決定打となりました。米虫が出る家には必ず出しっぱなしや高温多湿という原因が潜んでおりそれをデバッグするように一つずつ潰していくプロセスは私に住まいの管理に対する新しい主権者としての意識を芽生えさせてくれました。今でもお米を研ぐたびにあの茶色い影を思い出して手が止まることがありますが今の完璧な管理体制が私の安らぎを支えておりあの日々の苦い経験が結果として家族に安全で美味しい食事を提供するための最高のリテラシーを私に授けてくれたのだと今では前向きに捉えることができています。清潔な暮らしは一日にして成らず一粒の米を大切に扱うその所作の中にこそ害虫を寄せ付けない真のバリアが宿るのだと私は確信しています。