それは、寝苦しい夏の夜のことでした。クーラーをつけっぱなしで寝ていた私は、顔に何かが当たる、カサカサという感触で、うっすらと目を覚ましました。寝ぼけ眼のまま、それを手で払いのけると、それは、ベッドの横の壁に、音もなく張り付きました。黒く、光沢のある、紛れもない、ヤツでした。ゴキブリです。しかも、そのゴキブリは、私が寝ているベッドの真上にある、エアコンの送風口から、ゆっくりと姿を現した第二のゴキブリと、合流しようとしていました。私は、声にならない悲鳴を上げ、ベッドから転げ落ちるようにして、部屋の隅へと逃げました。エアコンから、ゴキブリが、出てくるなんて。それは、私が想像しうる、最も恐ろしい悪夢の光景でした。その夜、私は、リビングのソファで、震えながら夜を明かしました。翌朝、私は、半狂乱の状態で、インターネットでエアコン専門のクリーニング業者を探し、事情を話して、緊急で来てもらうことにしました。駆けつけてくれた作業員の方は、私の話を聞き、慣れた手つきでエアコンを分解し始めました。そして、内部を懐中電灯で照らしながら、静かに言いました。「ああ、やっぱりいますね。奥の方に、巣、作っちゃってます」。その言葉に、私は、その場に崩れ落ちそうになりました。高圧洗浄機から噴射される黒い水と共に、エアコンの内部から、ゴキブリの死骸や、卵の殻、そして、おびただしい量のフンが、次から次へと流れ出してくる光景は、まさに地獄絵図でした。清掃後、作業員の方は、ドレンホースの先に、防虫キャップを取り付け、壁の配管の隙間を、パテで丁寧に塞いでくれました。「これで、もう大丈夫ですよ」。その言葉に、私は、心の底から安堵しました。エアコンの内部が、あんなにも汚染されていたこと。そして、その汚れた空気を、毎晩吸い込んでいたという事実に、私は、恐怖とはまた違う、別の種類の戦慄を覚えました。あの日の出来事は、私に、エアコンの定期的なメンテナンスの重要性を、骨の髄まで教えてくれた、忘れられない教訓となっています。
私の恐怖体験、エアコンから黒い悪魔が