庭や公園で蟻の巣を見かけた時、私たちはそれをありふれた光景として、あまり気にも留めないかもしれません。しかし、近年、日本の港湾地域などで発見が相次ぎ、その危険性が広く報じられている、特定外来生物「ヒアリ」の存在を、私たちは決して忘れてはなりません。ヒアリは、南米原産の非常に攻撃的な蟻で、その毒性は、時にアナフィラキシーショックを引き起こし、人の命を奪うことさえあります。在来種の蟻との見分け方を知っておくことは、私たちの安全を守る上で、極めて重要な知識となります。ヒアリを在来種の蟻と見分けるための、いくつかの重要なポイントがあります。まず、「色と大きさ」です。ヒアリの体は、全体的に赤茶色で、腹部がやや暗い色をしています。その色は、まるで赤錆のような、鈍い光沢を放っています。大きさは、同じ巣の中にいる働き蟻でも、三ミリから六ミリ程度と、大きさにばらつきがあるのが特徴です。日本の公園などでよく見かけるクロヤマアリなどが、ほぼ均一な大きさであるのとは対照的です。次に、最も特徴的なのが「巣の形状」です。ヒアリは、土を高く盛り上げて、はっきりとしたドーム状の「蟻塚(ありづか)」を作ります。その高さは、成熟した巣では二十センチから、時には五十センチ以上にも達することがあり、表面は粘土を固めたように滑らかで、出入り口となる穴がはっきりと見えないことが多いです。この「こんもりと盛り上がった、赤茶色の土の山」は、ヒアリの巣を疑うべき、最も分かりやすいサインと言えるでしょう。そして、何よりも危険なのが、その巣を刺激した時の「反応」です。在来種の蟻の多くは、巣を刺激すると、慌てて巣の中に逃げ込んだりします。しかし、ヒアリは全く逆の反応を示します。巣に少しでも振動や衝撃が加わると、巣の中からおびただしい数の働き蟻が一斉に這い出してきて、非常に攻撃的になり、侵入者に対して集団で、そして執拗に襲いかかってきます。もし、あなたが公園や空き地で、これらの特徴を持つ不審な蟻や蟻塚を見つけたら、絶対に興味本位で近づいたり、刺激したりしてはいけません。すぐにその場を離れ、お住まいの自治体の環境課や、環境省の地方環境事務所に連絡し、専門家の判断を仰いでください。
その蟻、危険かも?ヒアリとの見分け方