自宅のベランダや軒下に、鳩が巣を作っているのを発見した時、多くの人は驚きと焦りから、「すぐに撤去しなければ」という衝動に駆られるかもしれません。しかし、その行動は、法的なトラブルや、予期せぬ危険を招く可能性があるため、絶対に避けるべきです。鳩の巣を発見した際に、あなたが真っ先に取るべき行動は、巣に手を出すことではなく、冷静に状況を把握し、正しい手順を踏むことです。まず、第一にすべきことは「巣の状態を確認する」ことです。ただし、これは巣に近づいて覗き込むという意味ではありません。最低でも数メートル以上の安全な距離を保ち、双眼鏡を使うなどして、巣の中に「卵」や「雛」がいるかどうかを確認してください。この確認作業が、その後の対応を決定する上で、最も重要なポイントとなります。なぜなら、日本の法律「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(鳥獣保護管理法)」によって、許可なく野生鳥獣の卵や雛を捕獲・採取・損傷することが、固く禁じられているからです。もし、巣の中に卵や雛がいる場合、たとえそれがあなたの家の敷地内であっても、その巣を勝手に撤去する行為は法律違反となり、罰則(一年以下の懲役または百万円以下の罰金)の対象となる可能性があります。この場合、残念ながら、私たちにできることは、雛が自力で巣立つまで(孵化してから約一ヶ月から一ヶ月半)、静かに見守ることしかありません。フン害などに耐えながら、その時が来るのを待つ必要があるのです。一方で、もし巣がまだ作りかけの状態で、中が空っぽであったり、あるいは雛が完全に巣立った後の「空き巣」であったりする場合は、話は別です。卵や雛がいない状態の「巣」そのものは、法律の保護対象外となるため、撤去することが可能です。この「巣に卵や雛がいるか、いないか」という一点が、法的に許される行為と、許されない行為を分ける、決定的な境界線となるのです。この事実をまず理解し、巣の状況を冷静に見極めること。それが、鳩の巣問題に対処するための、最も正しい第一歩と言えるでしょう。