家の中でゴキブリを一匹見つけた時、「たかが一匹」と放置して寝てしまう。その、ほんの些細な判断が、数ヶ月後には、あなたの家をゴキブリの巣窟へと変貌させる、悪夢の引き金になる可能性があることを、あなたはご存知でしょうか。その背景には、ゴキブリ、特に日本の家屋で問題となるチャバネゴキブリが持つ、驚異的としか言いようのない「繁殖力」があります。あなたが放置したその一匹が、もし卵を持ったメスのチャバネゴキブリだった場合、その後の展開は、まさにホラー映画さながらです。チャバネゴキブリのメスは、一度の交尾で、生涯にわたって卵を産み続けることができます。そして、彼女たちは、「卵鞘(らんしょう)」と呼ばれる、硬いカプセル状の容器に、一度に三十から四十個もの卵を詰め込みます。そして、その卵鞘を、孵化する直前まで自分の体に付着させたまま持ち運び、最も安全で、餌が豊富な場所に産み落とすのです。卵は、暖かい環境下では、わずか三週間ほどで孵化します。そして、そこから生まれた数十匹の幼虫は、脱皮を繰り返しながら急速に成長し、わずか二ヶ月足らずで、次の世代を産むことができる成虫となります。この連鎖を、単純に計算してみましょう。最初の一匹のメスが、一ヶ月後に四十匹の子供を産み、そのうちの半分がメスだったとします。そして、その二十匹のメスが、さらに二ヶ月後に、それぞれ四十匹の子供を産むと…その数は、あっという間に数百、数千という規模に達します。これは、あくまで単純計算ですが、彼らの繁殖ポテンシャルがいかに恐ろしいものであるかを、物語っています。あなたが放置した、たった一匹。その一匹は、あなたの家の見えないどこか、例えば冷蔵庫の裏や、シンクの下で、静かにこの繁殖サイクルを開始し、その子供、孫、ひ孫たちが、あなたの知らない間に、指数関数的に増え続けていくのです。そして、ある日、あなたがそれに気づいた時には、もはや個人の手には負えない、巨大なコロニーが形成されてしまっている。一匹を放置するということは、この爆発的な増殖を、自ら容認することに他ならないのです。
一匹放置がもたらすゴキブリ大繁殖の恐怖