家の中に侵入してくる蟻の行列。その目の前の働き蟻を、殺虫スプレーでいくら駆除しても、問題の根本解決にはなりません。なぜなら、巣の中では、女王蟻が次から次へと新しい働き蟻を産み続けているからです。蟻との戦いに終止符を打つためには、巣の心臓部である「女王蟻」を仕留めることが絶対条件となります。そして、そのための最も効果的で、賢明な武器が「ベイト剤(毒餌)」です。ベイト剤は、蟻が好む餌の中に、すぐには効果が現れない「遅効性」の殺虫成分を混ぜ込んだものです。この「遅効性」というのが、最大のポイントです。働き蟻は、ベイト剤を本物の餌と勘違いして巣に持ち帰り、それを女王蟻や他の働き蟻、そして幼虫たちに分け与えます。そして、数日から数週間かけて、ゆっくりと毒が巣全体に広がり、女王蟻を含むコロニー全体を、内部から根こそぎ壊滅させることができるのです。これは、働き蟻を「毒の運び屋」として利用する、非常に優れた戦略と言えます。ベイト剤の効果を最大限に引き出すためには、その「設置場所」が非常に重要です。最も効果的なのは、蟻の行列ができている途中や、その行列が消えていく壁の隙間や穴のすぐ近くに設置することです。そうすることで、蟻たちが確実にベイト剤を発見し、巣に持ち帰ってくれる確率が高まります。製品には、顆粒タイプや、ジェルタイプ、あるいは容器に入った設置タイプなど、様々な形状があります。顆粒タイプは広範囲に撒くことができ、ジェルタイプは壁面などにも塗布しやすいのが特徴です。設置タイプのものは、雨に強く、子供やペットが直接薬剤に触れるのを防げるというメリットがあります。ベイト剤を使用する上で、一つだけ注意すべき点があります。それは、効果が出るまで「辛抱強く待つ」ことです。設置後も、しばらくは蟻の行列が続くため、不安になって殺虫スプレーなどを併用したくなるかもしれませんが、それは絶対にやめてください。働き蟻を殺してしまうと、毒を巣に運んでくれる運び屋がいなくなってしまい、駆除が失敗に終わってしまいます。静かに、彼らの最後の晩餐を見届ける。それこそが、ベイト剤を使いこなすための、最大のコツなのです。
蟻の巣ごと退治するベイト剤の正しい使い方