ゴキブリの成虫を掃除機で吸い込むことの是非については、様々な意見があります。しかし、それ以上に深刻で、見過ごされがちな問題が、「ゴキブリの卵」を掃除機で吸ってしまった場合のリスクです。ゴキブリの卵は、「卵鞘(らんしょう)」と呼ばれる、硬いカプセル状の殻に守られています。特に、小型で繁殖力の強いチャバネゴキブリの卵鞘は、見た目が黒豆のようであり、ゴミやホコリと見分けがつきにくいため、知らず知らずのうちに掃除機で吸い込んでしまっている可能性が十分に考えられます。では、掃除機で吸い込まれた卵鞘は、どうなるのでしょうか。残念ながら、その答えは、私たちの想像以上に恐ろしいものです。卵鞘は、その強固な殻のおかげで、掃除機の吸引時の衝撃にも十分に耐えることができます。そして、吸い込まれた先の掃除機の内部、つまり紙パックやダストカップの中は、彼らが孵化するために、実は理想的な環境となり得るのです。そこは、天敵のいない安全な場所であり、ホコリやゴミといった、孵化した幼虫の餌となるものが豊富に存在します。そして、掃除機が保管されている押し入れなどの温度が、彼らの孵化に適した二十度から三十度程度に保たれていれば、卵鞘は、その中で静かに時を待ち、やがて数十匹の幼虫が一斉に孵化します。そして、掃除機の内部で成長した幼虫たちが、排気口やホースの隙間から這い出し、家中に拡散していく。それは、まさにトロイの木馬を、自らの手で家の中に招き入れてしまうような、最悪のシナリオです。この悲劇を防ぐためには、まず、ゴキブリの巣となりやすいキッチンの隅などを掃除する際は、床に卵鞘が落ちていないかを、注意深く確認することが重要です。もし卵鞘らしきものを見つけたら、掃除機で吸うのではなく、ティッシュで掴んで物理的に潰し、ビニール袋に入れて密閉してから捨てるのが、最も確実な対処法です。そして、定期的に掃除機の紙パックを交換したり、サイクロン式のダストカップやフィルターを洗浄したりすることも、内部での繁殖を防ぐ上で非常に重要です。掃除機は、家を清潔に保つための道具ですが、その管理を怠ると、害虫を育てる温床にもなり得るということを、忘れてはなりません。
掃除機でゴキブリの卵も吸えるのか?